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楽園を遠く離れて

−−−− 趣味とか日常、ときどき同人 −−−−

LUNAR ヴェーン飛空船物語

   知識なく答えられず、何が学者か。
 (ヴェーン飛空船物語より)

Lunar―ヴェーン飛空船物語 (Asuka comics DX)

 初版発行が1998年7月ですから、やや古い漫画の部類に入るのだと思います。
 今回はこの漫画から『告白する記憶』という話について書きたいと考えています。



 この物語は、大人気キャラクター・ガレオンの兄であるザインの死から始まります。
 わたしは何故か、こういう“いのちのやり取り”がある話がとても好きです。そしておそらくそれは、わたし自身ですら憶えていないほどの、古いふるい記憶からくるものなのでしょう。


 さて、本編の話に入ります。
 ザインの死によって、ヴェーンで暮らす魔族はガレオンを含め5人になってしまった、と描かれています。
 つまり、ザインが生きていたとしても6人しか居なかったということになりますが、彼のこころざしを継ぐ魔族でない民はもっと大勢生きていますし、また、生前のザインに教えを請うた民も多く居ました。魔族であるかそうでないかは、耳たぶが少しではありますが、エルフのように尖っているかそうでないかで分かるようです。
 ザインはそれだけ慕われていたのです  ガレオンが生まれて、17回めの冬のことでした。


 ……しかし、ガレオンは物語の中盤まで、ほとんど表情を変えません。
(兄は空ばかり見ていたから、兄は私に興味がなかったから、足元の私には目もくれなかったから)
(私は兄に興味を持たなかった)
 そんなガレオンにニイアが訊ねます。戸棚にしまってある青く塗られた木彫の動物はなんなのか、というようなことを。ガレオンは「知らん」と素っ気なく答えます。ニイアはガレオンに畳み掛けるようにしてさらに訊ねます  「おにーちゃまのあになんでしょ」「おにーちゃま、あにと何しゃべった?」
「………何も」


 ある日、ザインの遺した飛空船を完成させようと苦心しているガレオンのもとへ、ニイアが何かを抱え持ち走ってきます。
「おにーちゃま見て見て! 青いのよ、おさかな(青い木彫の動物のこと)とおんなじよ」
 ところが『青い何か』は、ガレオンに見せる前に素早くニイアの両手から『飛び立って』しまいました。
 そこで騒ぎに気付いたのか、ガレオンと同じ魔族であるロージが通りかかります。
「あァん? そらおめぇ魚じゃねぇよ」
「それは鳥よ」
 ラトーナが答えを継ぎました。「ザインが言ってたもの。ねぇタガク」
 タガクはロージの息子です。
「14、5年は前だ。俺の所へ『これは青い色の鳥だ。色を塗ってくれ』と持ってきた」
「いつだか急に『鳥』に夢中になっちまって、アレはどうしてだっけかな」
 そんな彼らの疑問に答えるかのように、モリスが言います。生前の友を偲ぶかのように、窓から空を見つめて。
「遠くばかり眺めては、鳥の群れに立ち止まる。飛空船なんて造ってどこへ行く気だったのか…」


 ニイアの母であるヴェーン当主が、ガレオンの元を訪れて近況を訊いた日のこと。
 当主にガレオンは訊ねます。
「なぜ兄は船を造ろうとしたんだ?」
 当主はそれを知っているはずであるのに、敢えてガレオンに疑問で返します。
「君はなぜ造る?」
 その当主の言葉に、ガレオンはただひたすら「わからない」としか答えられませんでした。
「私は兄のことを何も知らない。兄のことを考えると息がつまる。まるで私じゃないみたいに」
「それは御前が御前の思っているような奴じゃないからさ」
 当主は伏し目がちに1冊の本のようなものを懐から取り出すと、ガレオンに手渡しました。
「御前にやるよ、好きにおし。燃やすよう頼まれたができなくて、墓に返すつもりだった」
 その夜、ガレオンは『本のようなもの』を読もうと、椅子に座りました。しかしそれは本ではなく、日記でした  兄ザインが、まだ幼かったガレオンの言葉や仕草、その日の体調や怪我の様子などを詳細にしたためた日記。
「歩く」「ひざとひじを擦りむく」「かき傷ひとつ」「微熱」
 ガレオンは読み始めた時は「?」となっていましたが、とあるページに辿り着きました。
「某月某日、晴天。ガレオンが空をゆく青い鳥の名を尋ねるも、知識なく答えられず何が学者か」
 その瞬間からだったのです。ザインが空ばかり見上げているようになったのは。



(近すぎて見えないものは、たくさんある)
 それは、物理的な距離ではなく、心理的なものであり。
(毎晩眠る前に耳をそばだてた。壁1枚隔てた向こう側の、咳ひとつ、ペンのきしみ、紙の擦れる音)
 それがガレオンに兄の存在を感じさせた、ほんの少し前までの記憶。
(兄はいない。兄がいない。どこにもいない)
 ガレオンは静かに泣きます。ただひとりの兄を想って。
(もう何ひとつ間に合わない)
 幼子のように、膝を抱えて。



 あくる朝、ガレオンがその日記を全て読み終え、燃やしているところにロージがやってきます。
「おう、早ぇな」
 なぜ御前の兄が飛空船を造る気持ちになったか分かったか? と尋ねるロージにガレオンは答えます。
「…本当のことを言えば、まだよくわからん。兄のこともわからん。だが、ほんの少しだけ楽になれた気がする」
 笑顔でロージは、そんなガレオンの背を軽くですが叩きました。その直後、ロージに質問があって彼の跡を追ったガレオンが見た光景は  

「いつかは俺も死ぬ。御前にも死は訪れる。
 俺たちのことを知っていた者も死ぬ。
 そうして忘れ去られる日が来る、それでいい。
 俺たちも常に、名も知らぬ者たちの歴史の上で呼吸している」
 タガクはロージの葬儀でそう呟きました。彼の父の死を悼む、ガレオンに向けて。
「親父殿の名は消えても、親父殿が教えた学問はヴェーンの中に語り継がれてゆく」


 これまで魔族という生き物であるガレオンたちを中心に物語はえがかれていましたが、次第に彼らを取り巻く空気が優しいものへと変わってゆきます。魔族でないヴェーンの民たちが、積極的にガレオンに関わるようになってきたのです。




 ……続きはコミックス、そしてゲームで!
(丁寧な終わりかたではありませんが、船戸明里先生の絵は美麗で、お話も繊細なのです!)
(わたしはゲームを知らないのです。禁じられて育ったので、プレイしたことはありません)





 わたしが『船戸明里』という作家をいつ何処で知ったかは、また別の機会にお話出来ればと思っています。